私の作品について 

永井雅人


私は制作において自らの美観や東洋的な宇宙観を表現するために、銅版画を中心とした版技法を最大限に利用したいと考えている。私の作品では人間に対しての自然、木や水や海といった自然が主要なテーマとして扱われている。それは私が作品の中で人間中心の世界に対し畏敬の念を抱かせるような自然の森羅万象を創造したいと願っているからである。

私の意図は、例えば実際に足を運んで見た風景を版画作品の中に写真のようにリアルに再現することにあるのではない。私は現実の風景に取材しながらも、自身にしかイメージ出来ない架空の存在としての風景、自然を再構築することで、その場の持つリアリティを版表現の中に取り入れようと考えている。

 

私の大型の銅版画作品は、従来の版画というよりはむしろ版表現による絵画と言えるだろう。それは版の複数性を捨てて限定数を1部のみとし、多くの種類の版を1部ずつ作っておいて、それぞれをパネル上で組み合わせ構成、結合して新たな一つの作品にしているからである。


この技術において用いられる多数の銅版は、特殊な技法で描画され、腐食されている。すなわち私は普通は銅版画の制作には用いられない水性アクリルラッカースプレー、油性マジック塗料、水性グランド液を一つの版面上で組み合わせて使用し、1,2回だけに限った長時間の酸による腐食で版を作り出すことを考え出した。

私は東京造形大学、多摩美術大学大学院の6年間を通じてこの技法に取り組み、他の画材や技法では決して表現することの出来ない版表現のモノクロームの美を見い出した。

 

今日、世界の版画作品はあまりにも技巧的かつ工芸的になり、日本においても表現ジャンルとしての版画はあまりにも狭くなっている。私はこの現状を踏まえたうえで現代美術における版表現の可能性を追求することをこれからも信条としていきたい。




海の誕生Ⅱ
海の誕生Ⅱ